即メモ式吟行術
吟行での多作の秘策は、知識を封印、五感を研ぎ澄まして何かを感じとったら、ことばを選ばず直ぐさまメモするという『即メモ式吟行法』です。
俳句を始めたばかりのときは、感性が錆びついているので、
“雨が降ってきたな” / “風が吹いてきたな” / “青空が出てきたな”
という程度にしかメモできないかもしれません。でも訓練を重ねていくうちに、
“霧のような雨だ” / “篠突くような雨だ” / “冷たい雨だ”
と、少しずつ進化して具体的にメモできるようになってきます。
吟行苦手組は、右脳(感性)と左脳(知識)とを行き来しながらことばを探そうとするので時間がかかります。 実感を得たら知識に頼まず、そのまま即メモするという徹底が多作の必須条件なのです。
こうして、即メモ式吟行に慣れてくると、
“風に駈けだす落葉かな” / “音立てて嵩の落葉踏む”
上五がなかったり、字足らずであっても俳句の切れっ端のようなメモが取れるようになってきます。 定例吟行のメンバーなら既にその域に到達しているので、詠みながら推敲はしない…ことだけを励行してください。
遠足子のようにウロウロするばかりでは俳句もどきが詠めません。『風に駈けだす落葉かな』に出会ったらその場所で足をとめ、上五との出会いを待つのです。
決して知恵の抽斗を繰って上五を探してはいけません。五感だけを働かせてひたすら待つのです。 そのうち風が吹くたびにドミノ倒しのように駈け出していくのに気づきます。
ドミノ倒しのごと風に駈けだす落葉かな
字余りですが気にせずそのままをメモします。油断するとここで推敲したくなりますが我慢します。 推敲は左脳に頼むことになるので、調子の出てきた右脳を休ませることになり、その間に貴重な一期一会を見逃すかも知れないからです。 手早くメモしたら即右脳へ戻って観察をつづけます。すると、
追ひ越されては追ひかくる風落葉
という新たな感動を得たので即メモです。 移動せずに粘っているとだんだん調子が出てきて、完成度の高い句が授かるようになってくるのです。
やや出来過ぎのシナリオのように映るかも知れませんが真理としては理解いただけたかと思います。これこそが秘伝の即メモ吟行術です。
吟行中に推敲しながら句を詠む…という悪癖が身につくと、一句一句に時間がかかること、せっかく調子の出てきた感性を一句ごとにリセットしてしまうなどとても非効率になり、結果多作は叶わないという障害が生じるのです。
せっかくの貴重な吟行時間、句を詠むことだけに専念したいですね。